前回の記事「手数と投了 6:様々な連続対局における投了手数」では、様々な連続対局における棋譜データを解析し、平均手数にはソフト間の“主張”の対立が反映されていることを示しました。すなわち、読み筋が合う(読みの類似性が高い)程、平均手数が長くなる傾向があるということです。今回は、その点を踏まえて、改めてfloodgate棋譜集の平均手数の詳細を再解析してみたいと思います。

今回、特に注目するのは、floodgate棋譜集(2012~2016年版)における平均手数(読みの類似度)とレート(両対局者の平均レート)との関係です。この関係を調べることで、全体の平均値からは見えない詳細な関係構造が明らかになり、また、2016年版における平均手数の大幅な上昇の原因も推測できるようになります。

手法としては、両対局者の平均レートをレート100刻みの区間に分割して(2000~2100、2100~2200等)、区間内の平均手数とレートの平均を算出します。採用するのは、30~230手まで、レート差200以内の対局に限ります。

2012~2015年版の結果を下図に示します。区間内のデータ数が10個以上の結果のみを黒点で表示し、また、レート500刻みの区間における平均を青線と青字で示しています。

mrate-tesuu_m

各点はばらついているものの、500刻みの区間の平均で見ると、大まかな傾向があることが分かります。2000~2500の区間では平均よりやや高めの平均手数であり、2500~3000の区間では平均手数が低くなり、3000~3500の区間では平均手数が高くなります。

2000~2500の区間は、弱くしたGPSやBonanza系統のソフトが多い領域であり、これらのソフトの読みの類似度が比較的に高いことから、少し高めの平均手数になっているようです。

2500~3000の区間は、種類の豊富なソフトが混在している領域であり、全体的に読みの類似度が下がり、平均手数が低くなっています。ソフトの“進化論”として眺めると、この領域は様々な手法が試行されている混雑期だと言えるかもしれません。

3000~3500の区間になると、読みの類似度が上がり、平均手数が上昇します。これは必ずしも同系統のソフトが増えているというわけではなく、異なるソフト間の読みの類似度も向上しているようです。この領域においては、現在の枠組みにおける手法の可能性がやや煮詰まってきているのかもしれません。

これらの傾向は、下図の2016年版の結果でも明確に現れています。

mrate-tesuu_m_2016

特に、3000~3500の区間の平均手数が大きく向上し、また、新しく出現した3500~4000の区間の平均手数はさらに増えています。そして、これらの区間の棋譜が増えたことが、全体の平均手数の向上の原因となっています。

この結果は、同系統のオープンソースソフト(Apery系、技巧)の放流が増えていることを差し引いても、レート上昇と読みの類似度との間に正の相関があることを示唆しています。この相関関係は“ある枠組みの中で最適化を目指していくと手法の詳細に依らずに類似性が増していく現象”として解釈できるかもしれません。

以上、今回は、floodgate棋譜集の平均手数の詳細を再解析しました。平均手数(読みの類似度)は対局者のレートに依存した詳細な構造を持っており、特にレート3000以上の領域においてはレート上昇と読みの類似度との間に正の相関が見られることが分かりました。

もしこの原因が手法の最適化にあるのだとすれば、今後もこの傾向は進んでいくと思われます。256手ルールの改善等も必要になるかもしれません。また、もしかすると新たな枠組みが開発されて、再び平均手数が大きく下がる混雑期に戻るという可能性もあります。未来のことは誰にも分かりません。

この論稿シリーズは一旦ここで締めたいと思います。次の記事でまとめます。