羽生名人の第2期叡王戦への参加の決断は、コンピュータ将棋界にも大きな衝撃を与えています。羽生名人は誰もが認める棋界の第一人者であり、歴代最高との呼び声も高い棋士の一人です。これまでは、その立場の重さもあってか、電王戦に出場することはありませんでした。今回の叡王戦は、もし優勝すれば、来年の電王戦への出場が決まるため、とても衝撃的なニュースになっているわけです。

さて、今回の記事の取り上げたいのは、「もし優勝すれば」という可能性がどれくらいあるのかということです。過去の実績からして、羽生名人の棋力が現在もトップクラスであることは間違いないわけですが、叡王戦は一発勝負のトーナメント戦であるため、必ずしも最高棋力者が優勝できるとは限りません。

もちろん、一発勝負ですので、実際にどうなるのかは全く予想が出来ないのですが、イロレーティング等の仮説を用いると、優勝する確率を見積もることはできます。今回は、そういう鬼が笑うような計算をやってみたいと思います。

ますは、段位別予選ですが、第2期叡王戦の公式ページにトーナメント表が載っています。羽生名人はEブロックで、最初に南九段と塚田九段の勝者と対局し、勝ち抜けば、屋敷九段と森下九段の勝者と対局することになります。

各人の最新レーティングは、ランキングサイトによると、羽生名人:R1896、南九段:R1429、塚田九段:R1571、屋敷九段:R1753、森下九段:R1597となっています(2016年5月28日現在)。イロレーティングについては、以下の解説記事をご参照ください。

イロレーティングの勝率式に基づいて、九段予選Eブロックを100万回シミュレートしてみると、勝ち抜け確率について、以下の結果が得られました。

  • 羽生名人(R1896):0.656466
  • 南九段 (R1429):0.003399
  • 塚田九段(R1571):0.029507
  • 屋敷九段(R1753):0.253126
  • 森下九段(R1597):0.057502

予選については、羽生名人の勝ち抜け確率は66%程度であるという結果です。

続いて、予選を勝ち上がった場合に、本戦トーナメントと決勝3番勝負を勝ち上がって優勝する確率を考えます。仕組みが第1期叡王戦と変わらないとすると、優勝するには、本戦トーナメントを3連勝して、さらに決勝3番勝負で勝ち越さなければなりません。

これについては、他の予選突破者が分からない現段階では簡単にシミュレートできないため、各対局における勝率が一定であると仮定した時に、その勝率に対する優勝確率を計算してみました。

結果が下の図です。横軸が勝率で、縦軸が優勝確率になっています。

kessyou

もしも勝率が5割であれば、優勝確率は1 / 16 = 約6%ですが、勝率が6割になれば、優勝確率は約14%に上がり、勝率が7割になれば、優勝確率は約27%になります。

本戦出場者は強豪揃いになることが予想されますので、いくら羽生名人であっても、勝率は7割弱程度だと推測されます。そうすると、予選を突破したとして、優勝確率は20~25%程度だということになります。

以上をまとめると、羽生名人が予選を突破する確率は66%程度であり、さらに本戦で優勝する確率は20~25%程度であるという見積もりになりました。両者を掛け合わせると、優勝確率は13~16%程度ということになり、いくら羽生名人であっても、運が味方をしないと簡単には優勝できないようです。